最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)783号 判決 1968年10月08日
上告人
田中貞一
代理人
清野春彦
被上告人
伊藤良一
ほか四名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人清野春彦の上告理由第一点について。
抵当権の設定契約が無効であるときは、その抵当権が実行され、その不動産が競落されても、競落人は、その不動産を取得することができないことは、当裁判所の判例(当裁判所第二小法廷判決昭和四二年(オ)第一一八号、同四三年二月一六日民集二二巻二号二二六頁)とするところである。
原判決が確定したところによれば本件抵当権設定行為は被上告人伊藤良一、同石山恵美、同伊藤功、同伊藤孝の各持分については無効であるのであるから、上告人が所論の競売手続において競落人として競落代金を支払つたとしても、右被上告人らの各持分についてこれを取得するに由ないものといわなければならない。
したがつて、これと同旨にでた原判決の結論は、相当であつて、原判決には、所論のような違法があるといえない。所論は採用しがたい。
同第二点について。
原判決がその挙示の証拠のもとにおいて確定した事実、とくに昭和三五年三月一〇日三浦キノから山田勇に対する金三五万円の貸付について同人の懇望により、被上告人松岡清子が、みずからは出有者の一員として、また、末成年者であつた被上告人石山恵美、同伊藤功、同伊藤孝の親権者としてこれらを代理し、さらに、長男被上告人伊藤良一名義をかねて、右債務について各連帯保証契約を締結するとともに、同一債務を担保するため、いわゆる物上保証として本件不動産全部について抵当権を設定する旨を約しその旨の設定登記を経た等の具体的事実関係にもとにおいては、債権者が抵当権の実行を選択するときは、本件不動産における子らの不利益において利益を受け、また、債権者が親権者に対する保証責任の追究を選択して、親権者から弁済を受けるときは、親権者と子らとの間の求償関係および子の持分の上の抵当権について親権者による代位の問題が生ずる等のことが、前記連帯保証ならびに抵当権設定行為自体の外形からも当然予想されるとして、被上告人恵美・同功・同孝の関係においてされた本件連帯保証債務負担行為および抵当権設定行為が、民法八二六条にいう利益相反行為に該当すると解した原判決の判断は、当審も正当として、これを是認することができる(論旨引用の判例は、本件に適切でない。)。
原判決には所論のような違法はなく、所論は採用しがたい。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)